牧野邦夫という画家がいた。大正14年(1928年)に生まれて、1986年に亡くなっている。レンブラントや岸田劉生の影響を受けたらしい細密描写が特徴だ。作品には自画像と夫人の裸像がよくでてくる。独特の雰囲気があり、細密なのだが背景の日本的な空間がよじれていたりする。1970年の頃の幻視者たちと通じるところがある。
それらの絵をみていると、暗黒舞踏の土方巽や澁澤龍彦、つげ義春を思い出したりする。その頃の時代性が濃密にただよっていて、それが一目見て彼の作品だとわかる独自のオリジナリティを生み出している。今でもどの程度に知られているのかはわからないが、その時代を生きた彼の幸運を感じる事ができる。 元々、人の創りだすものにオリジナリティなどない。すべての表現はこの世の事物の模倣だ。模写や模倣、あらゆる技術を修得し繰り返す事により、独自の世界にたどりつく幸運な人たちがいる。若いという事は素晴らしい事だ。どのジャンルでも、現代から古典まであっという間に膨大な知識を吸収する事ができる。どんどんと変わっていく。年をとるごとに新しい知識の吸収力は減り、過去の知識はすっかり忘れて行ってしまう。 10代の頃の感性は、それだけで輝いている。膨大な知識は脳内を自由に行き来し、斬新な絵や言葉や旋律、思いもつかないような発想がうまれてきたりする。しかしそれらは急速に失われて行くのが常だ。社会性を持った時点でまったく消えてしまったりする。自分のできる範囲の事を繰り返しているうちに疲弊する。過去の自分を超えられない。それを超えるには他よりも多くの知識と技術を身に付けるしかない。 M大のTが、K大のKを連れて来たので、一杯やった。Kとは半年ぶりだ。 人は一冊の本だ。百万人いれば百万通りの解釈がある。人の解釈は自由だ。そしてその解釈は日々変わる。自分がみえているものと人のみえているものは、まったく違っていて当たり前だ。その解釈に惑わされたり、おびえたりする事はない。K君、僕らは最低で、ろくでなしのどうしようもない人間だよ。そこから逃げても仕方のない事だ。大体、自分で自分の事を作家だとか画家だとか音楽家なんて言ってる奴は頭が腐ってる。 古本屋をやっていると、誰にでもわかりやすいベストセラー本にはまったく興味がなくなってしまう。それらはあっという間に店頭で100円均一で売られる事になり、記憶から消えて行くだけだ。人も同じだ。破壊と創造、今日得たものを明日は壊して行くうちに、自分のできる事しかしてこなかった自分を超えられる。常識の壁を壊す事ができる。バカにもなれないバカが多すぎるよ。
by nakagami2007
| 2009-07-20 16:34
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