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店鋪移転の顛末

去年の夏の終わりはいろいろな転機を感じていた。店鋪の契約切れの問題は1年半の猶予があったが落ち着かなかった。10月の半ば頃にお客のひとりが隣駅にある空き店鋪の情報を持って来た。募集の貼り紙を見に行くと、今よりも少しだけ広く家賃は大分安い。半年間の家賃免除支援もあった。ネットで調べると手頃な広さの安い倉庫もなかったので、とりあえず応募してみる事にした。そこは公団の商店街で、いろいろと書類も必要で制約もあり何度か新宿まででかけた。

11月の終わりにはOKがでたのだが、よく確認もせずその時になって完全なスケルトン契約と知った。内装費用を思うと気が遠くなったが、既に動きだしてしまっている。なんとかするしかない。今までは回りに店鋪もなく勝手気侭にやってきたが、今度は商店会の問題、制約もあった。とりあえずは地元の新刊書店と競合する事のない、ブックオフにあるような品はなるべく置かない古書店にする事に決めた。内装をやっている人を友人に紹介してもらい、初めて店鋪を見に行った。

土が剥き出しの床、何もない入り口、壁はブロックが出ていてどうみてもただの廃虚だ。唯一の救いは本来はないらしいトイレが別入り口なので残っていた事だ。しかし書類をみると設計士による図面が何枚も必要だし、それだけでも金がかかる。若干でる立退料では到底まかなえる筈もなかった。何しろ本以外には何の興味も持たない古本屋である。不動産屋と打々発止のやりとりなどできるわけもない。とにかく金をかけずにとお願いした。床は打ちっぱなし、壁はペンキを塗り、入り口はパネルで扉は木にして通常は開けっ放し、灯りは電球にしてもらった。

12月の半ばに図面を提出したが、許可が出るまでかなりの日数がかかる。年末年始が近いので、ある程度先に工事を進めさせてもらえるように頼んだ。店の本の山は見ていると気が遠くなった。住んでいる団地の一部屋を物置きにして、すぐには使えずに奥に山積みになっていた品を整理して持っていく事にした。店もネット作業も通常通りにやっているので、これが遅々として進まない。毎朝段ボールを運び上げ、帰った夜に持ち帰った品を更に整理している内に消耗してきた。

年が明けて床も乾いたと聞き、まずネットで使っている品を運ぶ事にした。台車だけは買う事にしたのだが、これは思いの他安かった。その間にも処分する品がでてくるので、ちり紙交換のたて場に捨てに行かねばならない。捨てるにもビニールを剥がさなければいけないので、手間ばかりかかる。ゴミは市の処分場に持ち込んだが、一度目で6千円近くもかかった。そのため棚もカラーBOXのようなものも、とにかく使える物はすべて使う事にした。店頭にあった傷んだ棚などは新店舗の奥にある狭いスペースに置き、そこをネット用の倉庫にした。ちょうどすべての品が収まり、他の物を置く場所もとる事ができた。

使っている棚と本を同時に運ぶのは時間がかかる。何本かは不足するので、店頭の均一本用の4本の棚だけは安売りの店で新品を買った。そこに新しく置く均一品を店の中から選んで運んだ。本格的に運び始めた年明けすぐには、もう腰にきていた。朝起きると全身が固まっている。それからは毎日シップ薬と栄養ドリンク剤の世話になった。ようやく店の販売棚以外の品を運び終わった頃には、引越し最終予定日まで一週間近かった。お客の親父さんがトラックをだしてくれるといい、友人が若い衆を2~3人連れて来てくれるというので、その日一日ですべてを終わらせるつもりだった。

発送業務ができなくなるので、その前にはネットの仕事を中止した。店の品を運び始めたので、店の方も結局休業状態になった。少しずつ本棚を置き本を並べ、整理が面倒なため先に運んだ細々とした品を並べていると、廃虚だった空間と古い棚のどちらもが生き返っていった。どうなる事かと思われた高い天井も、そのヒビも良いアクセントになった。引っ越し日の日曜は夕方までに終わらせようと、ひたすら本を運んだ。その間にも棚を組み立てて本を収めなければ足の踏み場もない。結局あちこちの空いた場所に置くので完全に混ざった状態になってしまった。

それから3日かけて見栄えだけは何とかなるようにし、2月1日の昼に新宿に行き再度の仮契約、その日の午後に開店した。その後早出をしたり、2度の日曜のすべてを費やして棚の整理をした。ようやく形になったので、今度の日曜は正月に一日休んで以来の休みがとれそうである。来週からはネット作業も本格的に再開し、これまでのマイナス分を取り戻さねばならない。12月からの作業の間、大量の本に埋もれながら、物を何も持たない旅人である自分を夢想していた。ブコウスキーの墓に刻まれた言葉、「がんばるなよ」と普通の顔で言える日を思っていた。

ゆったりとした良い店になったと思っている。青梅線の線路沿いを歩けば10分も行かない所に前の店がある。ちょっとした場所の違いや店の雰囲気で、驚く程お客は変わるのだと知った。前の店は何年も前から倉庫になっていた。誰もいなければ、ネット作業に専念できると思っていた。そして、そんな穴蔵のような場所を愛してくれた人もいたのだ。そういう人にはここは居心地が悪いのだろう。今月いっぱいは前の店鋪の駐車場を借りている。時々窓からのぞくと、古ぼけた何もない空間が広がっている。ついこの間まで、ネット作業が一段落するとここで、天井桟敷あがた森魚の音楽を聴きながら演劇や映画の話をしていたのだ。どうしようもない気分の時も、助けてくれる誰かがいた。

店の移転が決まった後に、店の前に梅の苗を植えた。その花の蕾もようやくふくらんできた。店の場所は変わったけれど、私が変わったわけではない。またここで会いましょう。開店の2日目と3日目はお酒を持ってきてくれたお客がいた。顔をだしてくれた近所の人とも酒を飲んだ。ひどく疲れてもいたので、その後挨拶がてら飲みに行ったお向かいの店では一部記憶がない。大変失礼なのですが、その時話した方は顔を合わせた時にはそう言って下さいね。後日顔をだしたご近所さんも酒を飲んだ日は楽しかったようで、特に用事のない金曜の夜は酒持ち込み可の日とした。

そんなわけで青梅線東中神駅前に引越しました。ついでがあれば寄って下さい。昭島市玉川町1-7-2-115です。  

      '07.2.15
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by nakagami2007 | 2007-02-15 14:22