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死んだ男の遺した本

どんな本にも歴史がある。黒っぽい本といわれる古書によくみられる、センスの良い古書店票や蔵書印なども楽しい。その本のたどってきた変遷を思い浮かべたりする事ができる。しかし今ではそういうものは単なる傷や汚れでしかない。人や生き物の暮らしてきた息づかいや匂いのようなものは穢れでしかないのだ。そういった痕跡を極力消そうと、ブックオフのような店では本が削られて、どんどんと小さくなっていく。

店鋪の移転をしてしばらくたった頃にK君が「ここに引越したんですか」と顔をだした。K君は20代の後半だが、店での付き合いはもう10数年になる。忘れた頃にふらりと顔をだすのだが、前は米軍ハウスに住んでいて子どもの頃から奇妙な知り合いも多いようで、よく面白い品を持って来てくれていた。今は絵描きをしている。ちょうどその日は金曜日で、彫刻屋のTさんがワインを持ってきてくれたので一杯やる事になった。

それから2ヶ月余りが過ぎた頃、そのK君が珍しく少し酔った風で現われた。話をきくと、風変わりな知り合いの一人である50代の男が自殺したという。数人で遺された部屋の整理をしていて、その数日は酒を飲む事が多かったらしい。死んだ男は、過激な表現で知られていたアングラ劇団に参加をしていて、舞台美術や絵を描いていたという。自殺する者は、後に残された者たちにも傷をつけようとする。話をする内に、死んだ男の社会や女への執着や憎悪をうかがう事ができた。

ふと彼の本棚に興味が湧いた。古本屋とは人の死に密接な関係のある因果な商売である。有名な作家などが死ぬと、処分する筈の品まで勝手に持ち出し新発見の資料にしてしまうハイエナのような話もきく。そんな悪辣な商売気などは特別だが、古本屋は単純に本棚に並んだ本を前にすると好奇心が押えきれないのだ。「もし本を処分する所が決まってないようなら、一度みせてくれないかな」と言っておいた。

それからまたしばらくたった夕方、K君が「今から行きましょう」と顔をだした。とりあえず店を閉めて行く事にした。本棚3本にぎっしり詰まった背表紙は思いがけずに綺麗な専門書などが並んでいた。少し拍子抜けしたが大半は店で使う新しい本なので、普通の問題のない値で買取る事にした。軽自動車にすべて積み込むとエンジンは苦しそうな音をたてた。

拍子抜けしたというのは、その少し前に強烈な本の山を見ていたからだ。近所の夜逃げをした一家の私物の整理を頼まれたという親父さんが来て、「本をみてくれないか」と言う。「すぐに戻ります」と貼り紙をして見に行った。家の前に堆く積まれた本の山はすべてがオカルトやスピリチュアル関連のトンデモ本だった。仮に一冊一冊に特別に珍しい品がなくても、同ジャンルの物が大量に揃えば意味がうまれる。「面白いですねえ」と手にとった。

すると小口の部分に多色のボールペンで線がひかれ、奇怪な模様になっていた。別の本をみると、やはり同じようになっている。結局すべての本に模様が描かれ、細かい書き込みなどもあった。そこには、その持ち主が信じた現世利益やこの世の終末があったが、彼らは救われなかった。「申し訳ないけど、ゴミとして処分して下さい」という他なかった。

K君に手伝ってもらい、ようやくすべての本を店の中におろし終わった頃には、すっかり疲れていた。店は開けたが、それから作業をする気力がない。「とむらい酒でもやりますか」と前週金曜日の残りの缶ビールと日本酒をだした。
それから本の整理をするのに、ずいぶんと時間がかかった。大量にあった網野史観や虐げられた人々に関する本は、ことごとく線引きや書き込みがされていた。結局商売にはならなかったが、それはそれで現実離れした何日かの濃密な時間を漂っていた。浮世の風に染まっていては、古本屋稼業などとてもやってはいられないのだ。

*競馬、春のG1は大荒れが続いていて手広く買っても的中が難しい。固く収まっているのは3歳牝馬のレースだが、オークスはローブデコルテとベッラレイアの2頭を1着の3連単にしたのだが、2,3着にもう2頭を加えた4頭の12点買いと絞りすぎてしまった。
ダービーは単勝1.6倍と人気のかぶっていたフサイチホウオーで固いように思えた。皐月賞をみるとゴールを過ぎてもホウオーの脚色は断然だった。フサイチホウオー一頭を1着固定の3連単を買う事にした。アサクサキングス、ドリームジャーニー、ヴィクトリーは惨敗もあれば大駆けもあるムラ馬である。それらを2着にし、3着は手広く流した。気になった14番人気のアサクサキングスからフサイチホウオー、ドリームジャーニー、ヴィクトリーへの馬連とワイドも押さえておいた。

大波乱続きでは語呂合わせ馬券も有効だ。1987年に前皇太子が観戦された時の天皇賞はニッポーテイオーとレジェンドテイオーの「帝王」馬券で決まった。2007年の今回の観戦でも同様に、フサイチホウオーとアサクサキングスの「王」馬券で決まるような事も起こりうると思った。レースは東京競馬場のゴールの先の方で観ていた。アサクサキングスが先頭でこちらに向かっていたが、ゴール前で牝馬で参戦していたウォッカが難なくかわしていった。そうだったとその瞬間に思った。皇太子といえば愛子様、フサイチホウオーではなくウオッカだった。ウオッカ(女)、アサクサキングス(王)、アドマイヤオーラで「女帝のオーラ」という馬券になっていた。ターフビジョンをみあげると、215万と3連単の配当が表示されていた。   

      '07.5.28
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by nakagami2007 | 2007-05-28 14:25