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本の山の前に佇んで

今年もまた一年が過ぎた。年を重ねる毎に日々の変化は乏しくなり、時の経過が速くなるのはあたりまえの事だが、それにしても速い。毎年の事だが、日曜(と1月1日)以外は休む事もなく淡々と働く。本の価格が下がれば仕事量は増え、売り上げも体力も落ちて飲みに行く事もまったくなくなった。それでも変化がないという事は悪い事ではない。毎年同じ日の同じ場所に種を蒔き、同じに日に収穫ができるという奇跡が続いているという事に他ならない。

店に並べた本が死ぬまでに売れる量は、たかが知れている。それなりの値段で売りやすいものから順にネットで販売しているが、毎日の事なのでそれもすぐに行き詰まる。残った山を何度も掘り返している内にまた一年が過ぎて行くのだ。ネット販売は手間ばかりかかるが、売れなければいくら働こうが売り上げはゼロだ。売れた所ですべてが経費と仕入れに消えて行く。仕事というよりはもはや趣味だ。しかもギャンブルよりもリスクが高い趣味なので、始末が悪い。

客商売をしていると、さまざまなプライドとコンプレックスをかかえた人たちと出会う。人の顔や名前がよく覚えられないのは、一種の防衛本能なのだろう。古本屋には尊大な本、卑屈な本、楽しい本、悲しい本、といった感情が詰め込まれたいろいろな品が持ち込まれる。古本屋はすべてフラットにつきあうしかない。人と同じように本に貴賤があるわけもなく、価値観は人それぞれだ。古本屋がつける価値は店を維持させるためだけのものでしかない。店売りは本当に難しくなってしまったが、千円札一枚で何冊もの雑多な本と出会える場所であればいい。

自分のプライドと相手のプライド、それぞれのコンプレックス、それぞれの怒り、それぞれの悲しみ、それぞれの恋愛感情、それぞれの宗教感、それぞれの愛国心、すれ違う事ばかりだが相手の立場になって考える他に道はない。相手の立場にたてない自己本位のストーカー気質の人が増えている。今この国を動かしているのも、そういう人だ。それぞれが寛容になる事以外に何があるのだろう。

何かができても、何もできなくても人は単なる人だ。他の誰かより、ましてや猫や他の何かよりも上等であるわけがない。店を閉めていると、何度入社試験を受けても就職が決まらないと言っていた女の子が、「もう戦争しかないっすかねー」と言って通り過ぎた。ナチスのような優生学や民族浄化があれば、役に立たない国民として真っ先に排除されるのは古本屋だろう。

そうだろ、フーテン暮らしの爺さん。

落陽

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by nakagami2007 | 2013-12-30 13:26